トリコは紅紫色の景色を眺めていた。
ぼんやりと、風に揺れて波打つその絨毯のような花畑へと視線を流している。
草原の中にぽつん、とあるそこ。
それは捕獲レベルが発生するような珍しいものではなく、ただの花だった。そのせいもあってか、あたりにこれを捕食しようという動物たちはおらず、蜜を求めて蜂や蝶が飛び交うだけの、のどかな風情だ。
今はハントの帰路。
誰かに依頼されたわけではなく、ただ何か美味いものが食いたくてふらりと出かけたのだ。その目的はすでに達せられている。ハントした食材は、すでに全て自分の胃袋に収まっている。
その帰路で、この光景を見つけたのだ。
ここは一般人がおいそれとやってこられる場所ではない。美食屋たちがおいそれと近づけないような危険区域でもないが、積極的に寄りつこうとは思わない。ある程度の実力は必要とする場所だった。
花は、変わらず咲いている。
当たり前のように、風にゆっくりと揺れていた。
どこかで見たことのあるような花の名を、トリコは知らない。そもそも、食と関係のないものな上、花の名など興味の薄いものでもあったのだ。
ただ、その花は名は知らなくても形は知っている、ごくありふれた花だった。
紅紫色の花弁が、風に乗ってふわふわと揺れている。
その花が、なぜかトリコの記憶のなかの一人とダブった。
花にたとえられるような華やかな容姿はしていない。また、女ではないため花は基本的に縁のないものだろう。
だが、なぜかその花が、似合うような気がした。
太陽に向かって咲くあの大輪の花でもなく、
路傍に咲く真っ白な花でもなく、
小さな、その紅紫の花がきっと似合う。そんな理由のない確信めいたものを感じていた。
トリコは、のっそりとその花畑へと近づいていく。
花に足が埋もれれば、その不似合いさに自分でも笑えてきた。
唇の端を歪めて自嘲気味に笑う。
ただ、悪い気分ではなかった。
そのまま花の一輪をつみ取り、目の前にかざす。
なぜかこれを見ていると思い出す。
そして笑う顔を思い出して、それだけで心が暖かくなり笑っている自分に気がついた。
その小さな花を見せてやりたくて、トリコはそれを落とさないように腰のベルトに指した。茎がつぶれてしまうが、これなら落としようがない。
再び帰路へとつくために歩みを進めていった。
気分は不思議と良い。
その小さな花言葉を知ったのは、それからもっと後。
その意味を知ったとき、自分がどうしてその花に彼のことを思い出し、重ねたのだろうかという理由が説明できるような気がして、トリコは上機嫌になっていた。
貴方に似合う花
title:貴方へ贈る花に想いを託す・5題 GODLESS