小咄 その弐〜おもうところがあった〜




やはり短い話というのはつらつらと書くのが一番です。

でも、本当はもっと煮詰めるのもいいんですよ(え)。






  <誰が一番?>


  「ひーちゃん、大好きーv」

   ぴとっと、まるで子どものように(実際小さいし、顔立ちも幼いが)彩架が側にいる比良坂に抱きつく。
   比良坂も嬉しそうに微笑みながら、ありがとう、と返して彩架の頭を撫でる。

   その何とも言えない微笑ましい様子を見ながら、ふと、桔梗が気づく。

  「そういえば、さーさん。あんたの『一番』大好きな人って誰なんだい?」

   …一番、をつけないと長々と名前を言われてしまうのが落ちなので、先手を打っておく。
   (桔梗も馬鹿ではない。同じことをくり返さないのが普通だ)

   だが、聞かれた彩架のほうは、うーん? と呻って首を捻る。

   抱きついていた比良坂からも離れて、呻っているあたり、どうも決めかねている節があるようだ。

   そこで、桔梗は、

  「じゃあとりあえず考えてみようよ。めぼしい奴を上げていくから、そいつのどこが好きなのかさ。」

   と、提案してみた。

  「そうですね。そのほうがわかりやすいかもしれませんよ、彩架。」

   比良坂にもそう言われて、彩架もこくりと頷いた。

   
   さて。

  「じゃあ、まず…天戒様。」
  「若…は、見ていてすごく格好いいところかな…立ち振る舞いとか、言葉とか…人に対する、優しさとか…」

   王者の器、というより、人を救う賢君のような。

  「次は…九桐さん。」
  「強いからかな。自分の信念にすごく一途で…それで、すごく強い。生き方も、力の強さも。」

   その『強さ』が逆に九桐自身を苦しめているような気さえする、と心の奥で彩架は思った。
   でも、その迷いすらないところが、好きでもある。

  「風祭はどうだい?」
  「弟! 私ね、弟っていなかったですから…ああいう感じかなぁ、弟がいたら…」

   家族に対する情にも似た。表裏の龍だからこその親近感なのだろう。

  「じゃあ、桔梗さんは?」
  「あたしのことまで聞くのかい?」
  「桔梗ねえさんは綺麗な人。大人で…でも、すごく情が深くて……懐も深いよね、それに美人ですし。」

   面食いなのかも、と照れる彩架の頭をまんざらでも無い様子で桔梗が嬉しそうに撫でる。

  「御神槌は?」
  「御神槌さんは本当に優しい方なんです。遊びに行ってもいつも笑顔で出迎えてくれて…安心するのかな。」

   ああ、この様子だと思ったより先には進めそうにないよ、と心中で桔梗は御神槌に同情していた。

  「弥勒さん…は、どう思います?」
  「無口そうなんだけど、そうでもないところ。思ったところと違うところというか…でも、工房にも入れて貰えるし。」

   懐いている、と言ったほうがいいのかもしれない(本人は無意識だろうが)。

  「奈涸…は、想像がつきそうだけど。」
  「お兄さん、かも。あ、でも涼浬さんっていう妹さんもいるせいで余計にそう思うのかも…」

   そうそう、妹同様に可愛がってもらってるし、餌付け(違)まで。

  「えっと…雹さんは?」
  「桔梗ねえさんとは違って…かっこいい、のかな。考えてることに時々ハッとさせられるの…」

   綺麗なのもだけど、と付け加えておく。もちろん、人形達のことも好きです。

  「壬生はどうなんだい?」
  「霜葉さんは高潔な人。自分のできることをして…それにああ見えて結構、人に世話を焼きたがるんですよ。」

   おや、それは気づかなかったねぇと、桔梗が感心したように呟いた。

  「…們天丸さんは?」
  「もんちゃんって面白いから。そのくせ深いところを知っているみたいな…でも、面白いところかな、やっぱり。」

   遊ばれてるけど、それも嫌な範囲じゃないし。人好きされやすいのかも、と続ける。

  「泰山…は、聞かなくてもわかりそうだけどさ。」
  「泰ちゃんは素直な人。気は優しくて力持ち…で、心が優しくて、感情表現がストレートで一緒にいると安心するんです。」

   人も動物も、傷つけるのを駄目だって…あの姿にハッとさせられたこともありますし。

  「火邑さんはどうですか?」
  「ちょっと怖いところもあったけど、本当は仲間思いで手を…こう、何の損得もなく差し伸べられるんです。凄いなぁ、って思ってます。」

   それはあんただってそうだよ。だいたい損得でやってるわけじゃないだろ、と心のなかで桔梗は言った。

  「クリスのことはどう思ってるんだい?」
  「とっても明るい人。奈涸さんとはまた違う…お兄さん、なのかも。それに守りたいものに本当に全力でぶつかっていくところも…すごいです。」

   守りたい、という姿勢は見習うべきところがある。それに結構、なついているし。

  「嵐王さん……は?」
  「ちょっと怖いところもあったかな、って思うけど…でもそれって本当に一生懸命にこの村のことを考えていたからで。一途だなぁって…」

   素顔にはびっくりしましたね、と比良坂が言うと彩架も素直に頷いた。

  「じゃあ最期に比良坂だよ。」
  「え…私も、ですか?」
  「当たり前じゃないか。あたしのときだってしたんだし…どうなんだい?」
  「可愛いよ、ひーちゃんって。でも人のために本当に頑張って…それを、私も返していきたい。ひーちゃんがこれからも笑っていられるように。」

   彩架、と比良坂が呟いた。

   それは…この村のみんなに言えることだけど。
   思った。彩架はゆっくりと…思う。

  「私、みんなのことが本当に好きです…鬼哭村の人たちには、幸せになってほしい。
   そのためにできることを、してみたい。この両手で何ができるかはわからないけど…」

   ジッと自分の両手を見つめた彩架が、ギュッと両手を握りしめる。

   …この両手で、できることをしよう。と。

  「馬鹿お言いでないよ。」

   さらりと桔梗が言う。
   彩架が驚いて顔を上げると、ふわりと桔梗が彩架の頭に手を置いた。

  「あたしは天戒様はもちろんだけどね…あんたにだって幸せになってほしんだよ?」
  「……私はもう十分ですよ。」
  「駄目よ、彩架。」

   彩架の言葉に比良坂もすぐに言い返して、彼女の前にやって来る。

   握りしめられた彩架の手に、自分の手を置いて。

  「…彩架はもっと、欲張ってもいいんです。それを、みんな…望んでいるから。」

   でも、と言いつのる彩架に、比良坂がきゅっと少しだけ手に力を込めた。

  「貴方は、みんなに好かれているんですよ? 好きな人に幸せになってほしいと思うのは、普通のことでしょう?」
  「そうさね。だから、あんたも欲張んなよ。大丈夫…あんたはどんなに欲張ったって、許してくれるさ。」

   ころころと笑う桔梗。優しく微笑む比良坂。

   そのとき、そっと彩架は思った。
   みんなは知らないかもしれないけど、気づいてないかもしれないけど。
   私が幸せなのは…みんなが、側にいてくれることだと。

   優しく触れてくれて、笑顔でいてくれて。
   自分の名を呼んでくれる。


   それだけでもうおなかいっぱいだから、と思って、微笑んだ。


  「まあ、こういうさーさんだからまだ一番とか思えないんだろうけどねぇ。」
  「ふふ…でもきっといつか現れますよ。彩架の心をさらってくれる人が…」
  「……それはそれで腹が立つんだけどね。」

   ないしょで2人がこんな会話を交わしていたことを彩架は知らない。

   彩架はまだ、みんなのもの、なのだ。





  <気になる現象>


  「愛と!」
  「勇気と!!」
  「友情と!!!」

  「三つ揃ったぁ、心意気!!」


  「……すごいですよねぇ。」
  
   戦いが終わったあとのことだ。
   大宇宙党の面々がそれぞれの服から、いつもの服に着替え彩架たちのほうへ戻ってきた。
   そのとき、彩架がぽつりと、呟いたのだ。

  「ど、どうしたんですか、さーさん?」
  
   どもりながら聞いてくる武流の頭を慌てないで、という意味をこめてぽむぽむと軽く叩く。

   その意思が伝わったのか、あるいはいつものことで覚えたのか、はいと武流が素直に頷いた。

  「大宇宙党のね…方陣技のことなんですけど。」
  「なんだよさーちゃん。お前、何気にしてるんだ?」

   そこへ同じく戦いに参加…今回は龍泉寺の裏手にある洞窟に潜っていたのだ…している京梧が話に入ってくる。

   今回は江戸の見回りのほうもあるので、彩架と京梧、涼浬に紅影(武流)、黒影(十郎汰)と桃影(花音)にほのかと美冬と言ったメンバーである。

  「…私たちの方陣技ってだいたい自分たちの武器を使うものばかりじゃないですか。」
  「は、はい…それが何か?」
  「大宇宙党の方って…あれは、術なんでしょうか? それとも武器でやってるんでしょうか?」

   まわりがほんの少しだけ固まった。

   美冬は少しばかり頭を抱えている(確かにあれは謎だ、と)。
   ほのかも首をかしげて考え込んでいるし(私は術が中心ですけど、と)。
   京梧のほうも頭をかいて答えを出せずにいる(と、いうかそれって気にすることか?)。

  「…え、えっと……僕…い、いえ! あの…大宇宙党の皆さんは…えーっと、心の…」
  「心の?」
  「心のエネルギーでやってるんだよ!!」

   えねるぎー? と首をかしげている彩架に、ほのかが何かを動かすための燃料みたいなもののことです、と耳打ちする。

   おお、なるほど。と手を叩いた彩架であったが、やはり意味がわからない。

  「えねるぎーでどうやって…方陣技を?」
  「あーわっかんねぇかなぁ…だからな、こう思ってだなぁ…」

   説明するのはいいが十郎汰の言葉は精神論が多く(しかも矛盾)わけがわからない。

  「つまり、何かを信じる心ってのが『力』になってるんじゃないけ?」

   ナイスだ花音!! と喜ぶ十郎汰。

   ナイスの意味がわからない面々にまたほのかが耳打ちする。
   今度は彩架だけではなく、京梧や美冬。それに武流までいるあたりどうも浸透していない。

  
  「………ですが…」


   そのときだった。

   今まで黙って話を聞いていた涼浬が、ぽつりと呟いた。
   一同が一斉に涼浬のほうへ振り返ると、遠くを見ながら言った。

  「私は……いつの間にか、巻き込まれていました。」

   ………その場の温度が三度ほど下がってしまった。

   
   涼浬は、本当に無理矢理巻き込まれている節があったのだが…だが。

  「ご、ごめんね、涼浬さん。無理にするなら…」
  「い、いえ! 無理など…すみません、彩架さん。気をつかわせてしまったようで…」

   慌てて彩架の言葉に反応して、大丈夫だからと使える涼浬。


  「でも、毎回のようにどもってるよな。」
  「言うな蓬莱寺。彼女だってあまり人慣れしていないのだ。」

   私もそうだった、と涼浬を見つめながら美冬は思っていたという。

   ついでに。


  「み、みなさん、落ち込まないでくださいね?」
  「いいんだよ、どーせみんな大宇宙党のことなんてわかってくれないんだからな。」
  「ああ、そげなこと言ったら駄目だよぅ。」
  「でも…涼浬さんがいないと、あれもできませんし…」

   落ち込む十郎汰と、まわりで騒ぐ面々もいたのだが、それを気づくのはちょっとだけ後の話だ。



   と、いうか、後々。
   もっと気になる現象…そう、『漫才』で方陣技を使う二名が現れる…があるので、そのときもまたもめることになるのだが。

   それはそれ、である。





  <終われ(爆)>