小咄 〜おもうところ〜   




こばなし。俗に言う、少しのお話です。

堅苦しくないのですが、ひらすらに短いです。






 <恒例行事>

  「御神槌さーんv」

   振り返ると同時に、ぽすっと両腕に収まる少女。
   その感触に少しばかりとまどいを覚えつつ、それでも嬉しそうに御神槌が笑んだ。

  「こんにちは、彩架師。今日は私のお話を聞きにいらっしゃったのですか?」
  「はい。あ、あのね、今日はお土産も持ってきたんですよー。」

   ほら、と彩架が御神槌から離れて(少しばかり、御神槌が残念、といった顔をしたが)何かを差し出す。

   …団子の類のものを入れておくための、入れ物。

  「これは…ありがとうございます。ありがたく頂戴しますよ…
   ああ…そうだ、彩架師。よかったら一緒に…お茶でもいかがです?」

   ちょうどお茶請けもありますし、と伝えるとぱぁっと表情が明るくなる。

   尻尾さえあれば、はちきれんばかりに振っていることだろう。
   そのくらい…眼が嬉しそうにキラキラと輝いている。

  「御神槌さんのお茶、久し振りだなー…」
  「ふふ…いつもは貴方が入れてくださっていますからね。今日は、私が入れましょう。」

   さあどうぞ、と自分の私室に何の迷いもなく誘う。

   そして彩架もそれに遠慮することなく、入っていく。

   …ここで、まあ聡いものならば状況的にとても幸運な場面であるはずなのだ。
   密室で二人っきり。
   相手のほうも自分に少なからず好意を抱いてくれている。

   ねらい目なら(何の、と聞かれても困るが)、未だ。

  「……はい、どうぞ。今日は羊羹だったんですね。」
  「いただきまーすっv はい…若のお土産を買ってくるついでに…」

   ぱくぱくと目の前の綺麗に切りそろえられ、皿に盛りつけられた羊羹に楊枝を差して口に運ぶ彩架。
   それを幸せそうに、『貰った』はずの羊羹に手をつけることもなく、見守る御神槌。

   ちなみに、御神槌はお土産の羊羹には手をつけることなく、お茶ばかり飲んでいたので。

  「御神槌さん…羊羹、お嫌いなんですか?」
  「いいえ…好きなんですけど…私はもう、おなかいっぱいですから。」

   貴方を見ているだけで。
   …とは言わずに、またお茶を啜る御神槌。

   彩架はやはり気づかずに首をかしげるばかりだったが、御神槌から『もっとどうぞ』と言われ、また羊羹を食べていく。

   ……それはよくあることで、御神槌はあまり彩架からの『お土産』を食べることはない。
   彼の心の中では、『あなたが来てくれるだけで、十分なお土産です』などと思っているのだが。


   そんなこと、照れ屋な御神槌が言えるわけがなかった。


  「Hai! 神父御神槌、いるかい!」
  「御神槌様。今日はお土産を持ってまいりましたー。」

   それでも、彼の望むものはちゃんとここにはあったのだった。





 <ふと、思うこと>

  「むらちゃん、むらちゃん。」
  「……彩…それは、誰のことだ?」

   訝しげに振り返る先には妖刀をじぃっと見つめている少女。
   触るな、と言っているので触れようとはしないのだが、それでもこちらが怪訝になるほどじぃっと見つめている。

   しかも今、何か言わなかったか?

  「むらちゃん。」

   壬生のほうを見上げて、指を差した先にあるのはやはり…村正、だった。

  「………なぜそんなことを言うんだ?」
  「だって…村正って、何か霜葉さんに言ってるんでしょう?」
  「言っているというより…俺が感じとるだけだがな。」

   そう、村正は妖刀よろしく…魂らしきものがあった。

   ただそれは一歩間違えば凶暴きわまりなもので、うかつに壬生以外のものが村正に触れれば暴れ出すような代物だ。
   強い気を求めている。そして、弱い気の者であろうとも、それを吸い取ろうとする。

   それを抑え込んでいるのは、壬生だ。

   彩架は常人より見張るばかりの強い気の持ち主。
   村正もそれを『気に入って』いるのか、彼女が来ると騒ぎ出すのだ。

   結果、そのことが彩架が来たということを壬生に教えるものになっているのだが。

  「村正、じゃちょっと言いにくいから…むらちゃんって。」
  「……們天丸の呼び名か。」
  
   們天丸=もんちゃん。
   彩架がよく使う呼び名だ。

   彼女が楽しげな笑みをこぼすと、そう、っと村正のほうを見る。

  「だめですか? 気に入ってくれると思ったんだけどなぁ…」
  「………」

   ふと、壬生が黙り込む。

   ……村正は、静かなものだ。
   そう、『彩架』が来ているのに静かなのである。

   いつもなら≪気≫のせいで五月蝿いぐらいに騒ぎ立てているのだが…(だが、彩架がいる間は陰気を発しようとはしない)
   今は、いっそ怖いぐらいに大人しい。

  「…………彩。」
  「はい。」
  「やめておけ。こいつ(村正)が嫌がっている。」

   嫌がっているというより、言われて驚いているのか…呆れているのか。
   人で言うなれば、口をあんぐりと開けて、おまけに眼を丸くしているような状況だ。

   …ああ、そうだ。

   どこの世界に、徳川幕府を呪い続けた妖刀のことを『むらちゃん』などと親しげに呼ぶ輩がいる?

   ここに、いるのだが。

  「村正のままで、いいだろう?」
  「…はぁい。」

   どこか不満そうな彩架だったが、それでもすぐに切り替えて壬生に話し掛けてくる。

   壬生も、今は村正がまだ驚きを引きずっているようなので、騒がれるのを気にすることなく、話に付き合っていた。





 <怖いもの>

  「皆さんの挑発のときの言葉って、独特ですよね?」

   今日も元気に(爆)霊場を潜り続ける鬼道衆一行。

   敵を倒し、一段落ついたところでぽつりと、彩架が呟いた。

  「そうか? 師匠がそういうなら…そうなんだろうな。」
  「だって、尚雲さんだと…はい、さん、に、いち、どうぞ!」

  「もっと君の技を見せてくれ!」

   …条件反射だった。

   まあそれはおいておくとして。

  「…なんだか、武道好きの尚雲さんらしいなぁって。」
  「言われてみればそうだな…尚雲、褒められているのかは別としてな。」

   彩架としては褒めているほうなのだが、言う人が言うとからかいに近い。

  「若だってそうですよ…はい。さん、に、いち、どうぞ!」

  「外法ってやつを見せてやろう。」

   ここでもやっぱり条件反射。

   そこへ桔梗がころころと笑いながら近づいてきた。

  「そうだねぇ…それにあたしだと…」

  「あぁ、この身体の火照り…静めておくれよ。」

   率先してやってくれました。

  「桔梗さんだと色っぽいんですよね。技のときとかもそうですし…」
  「ふふふ…ありがと、さーさんv」
  「おい、さんさん、お前何馬鹿なこと言ってんだよ! さっさと先に…」

   そこへずんずんとこっちのほうへと歩いてくる風祭の姿。

  「はい、風祭さんも…さん、に、いち、どうぞ!!」

  「どっからでもかかってきな!!」

   ……おしりぺんぺんつきでやってくれました。

   しかも目の前にいるのは……天戒。

  「ほう。興継…俺に相手をしてほしいのか?」
  「う、うぇ!! お、おやかたさま!! い、いえ、滅相もない!!」

   面白いので放っておくことにして(酷)、桔梗は今度は残りの面々のほうに視線をうつす。

   彩架が止めようとするより早く、事を進めるつもりで。

  「弥勒だと、随分とわかりにくいものになるしねぇ…」

  「この俺の隻腕が、面を彫りたいと泣いているのさ。」

   ……さすがに面まで彫りだしてはくれませんでした。

   ここは風祭とは違うところ、というわけで。

  「火邑さんもすごいですよね。」
  「ん、そうか?」
  「はい、だって……さん、に、いち、どうぞ!」

  「消し炭にしてやる!!」

   しかも火吹きつきで。

   わぁーと手を叩いて喜ぶ彩架だった。
   そして最後に残った人…8人目のほうへ、振り返る。

  「御神槌さんのも独特ですよね。」


   御神槌と彩架を除いた面々が、ぴしっと凍り付いたような音がした。


  「ふふ…そうですか? 私はあまり考えていないのですが。」

   柔和に笑う御神槌に、彩架ものほほんと笑顔を返している。

  「そうですよ…はい、さん、に、いち。どうぞ!!」

  「我が前に跪きなさい!!」

   これが、独特と言わず何と言うのでしょう?


  「あいつの台詞が、一番怖いぜ…」
  「…そのことに関しては、異議なしだよ…」

   ちょっと遠巻きに御神槌を見る面々には気づかずに、彼と彩架は平和に会話を交わしていた。


   ちなみに、この台詞は時折村からも聞こえてくるというのだから。
   いったい御神槌は、何をしていることやら。





 <ひとまず、終わり(笑)>