サイナ=ヴァンスの日記(士官学校在学時代) ○月×日
『今日はペアマッチによる総当たり戦の最終日でした。
・・・とは言っても、また同じ事を繰り返すんですけど・・・
・・・でも、なぜか・・・今、私とジェスさんが成績トップなんです』
「もらったぁぁ!!!!!!」
「甘い!!」
今日は最上級生によるペアタッグの第一次総当たり戦の最終日であった。
・・・ペアが正式に発表されてから約一ヶ月。
今まで順調に勝ち上がり、どちらかが勝てば成績トップという場面になり、二組のペアが模擬戦(・・・もちろん、広い敷地内による実践である)が行われていた。
一組はイルムガルト=カザハラとリン=マオ。
この二人は常日頃から成績トップの常習者だった。
今回の総当たり戦の実質上の優勝もこの二人のもの・・・・・・と、誰もがそう思った。(実際、彼らの実力は士官生のほぼ全員が知っている)
だが、ここで意外な伏兵・・・ブラックホースが現れたのだ。
もう一組はレナンジェス=スターロードと・・・サイナ=ヴァンス。
誰も予想だもできなかったペアが、今、『トップ』の座をかけて前者のペアと激しい戦闘を行っているのだ。
ジェスはシュミレーションなどの実践授業にかけては成績上位者である。
サイナも筆記試験、ならびにメカにかけては右に出るものはまずいない・・・意外と、知られていなかったが。
「ジェスさん! 機体破損率80%を切りました!!」
「わかってる! 相手の破損率は!?」
今回の実践による模擬戦にはパイロットが二人乗る特別なものが使われた。
もちろん、シュミレーターにもこの機体と同等のものがインプットされているが・・・・・何しろ、扱いにくい。
二人乗るのだから分担作業が出来て楽なのでは? と思われがちだがそれは嘘である。
二人で乗るからこそよけいな気遣いなどが増え、時として意志が合わずあっけなく撃沈されてしまうこともあるのだ。
・・・これは、どれだけパートナーのことを信頼できるかに、かかっている。
「・・・82%・・・でも、右腕および右脇腹に破損率が集中してます!」
「わかった! いくぜぇ!!!!!」
的確な情報をナビする側が教え、実質的にマシンを操縦するものが一瞬の判断をする。
・・・そのことにかけて、この二人の息はまさしくぴったりだった。
ジェスが乗っている機体をかがませ、一気に加速をつける。
そして狙いはもちろん・・・装甲が薄くなっている右脇腹!!
「・・・いい狙いだ・・・だが、ばればれだな!!」
「イルム! 距離が急速に・・・」
「わかってる!!」
リンの忠告を予想してかイルムが機体を反転させる。
勢いづいたジェスたちが乗る機体がそのまま通り過ぎ無防備になる・・・・・・そう、イルムもリンも予想した。
しかし。
「ジェスさん! シールド発生率、全開しました!」
「よっしゃぁ!!!!」
何を思ってかジェスが機体にお飾りで備え付けられたシールドを全開させたのだ。
攻撃を防御するため・・・・・・ではなかった。
ガシャァァァァァ!!!!!
鈍い金属の破壊音が響く。
イルムが操っていた機体が・・・大きく揺れた。
その脇をすり抜けてジェスが操る機体が、止まった。
・・・・・・勝負は、ついていた。
「・・・・・破損率50%・・・見事に脇腹を抉られたな・・・」
溜め息をついてリンが上にいるイルムを仰ぎ見た。
するとイルムもまた・・・おかしそうに、悔しそうに笑った。
「・・・ああ。俺達の、負けだ。」
・・・そう!
ジェスはシールドを『武器』にしたのである。
時にビームサーベルすら跳ね返すシールドを水平に持ち上げ、それを巨大な・・・一種の『斧』のようなものに例えて装甲がもろくなった右脇腹を完全にえぐり取ったのである。
・・・こんな戦い方があるか、とリンが苦々しくこぼす。
脇腹を半分以上抉られた機体を無理に動かせば、完全に胴が離れてしまう。
だから、この勝負は『負け』なのだ。
「まあ。これも『実践』だからね。勝てばいいんだよ。」
軽い口調で言ったイルムの目の前にある画面に、勝利者であるジェスとサイナがコックピットのなかで喜び合っている様子が映し出される。
ジェスは体全体で相棒であるサイナに勝利の喜びを表している。
そしてサイナもそんなジェスの向かって、微笑んだ。
「・・・へえ。こうして見ると、サイナってけっこう美人なんだな。」
その女神の微笑みにイルムが興味深そうな声を出す。
「・・・イルム。」
そして極寒の声がかけられたのも、それとほぼ同時であった。
「やったぜ! サイナ、俺達の勝ちだ! 第一次総当たり戦、優勝だぜっ!?」
「はい。」
練習用の機体から降りても興奮さめやらぬジェスを、サイナは嬉しそうに見ている。
その顔に柔らかい微笑みを浮かべている・・・これは彼女にとって本当に嬉しい時にしか見せない『笑顔』なのだ。
「これもサイナのおかげだな。サンキュー。」
「・・・そんな・・・ジェスさんが、操縦・・・すごく、うまいからですよ・・・私は、ナビしただけですから・・・」
「それも立派なパイロットの仕事だろ!」
「・・・じゃあ、『二人の実力』、ですね。」
「そゆこと♪」
そういつもの『お約束』の言葉を言い合って、二人はほぼ同時に悪戯っぽく笑い合った。
・・・何故か、サイナもジェスの前では普通に振る舞える。
それが不思議と、とても居心地がよかった。
「あ。ジェスさ〜ん、サイさ〜ん。」
そんなときだ。
妙に間延びした声に呼ばれ二人がその方向にふり返る。
・・・こんな特徴的な言葉遣いの持ち主は、二人の知り合いには一人しかいない。
視線の先で柔らかそうなピンクの髪をなびかせながら、少しぽんやりとした雰囲気を受ける少女・・・いや、女性が二人のほうへ走り寄ってきたのである。
その女性・・・グレースは、おまけにむっつりと表情を固まらせている青年も連れてきている。
「・・・ウィン・・・まーた捕まっちまったか・・・」
「・・・お二人・・・ペア、ですから・・・」
なんとなく言い合って、二人は顔を見合わせはあ、と溜め息をついた。
溜め息の内容は『お気の毒に』である。
女嫌い・・・というより極度の女性不信で学校内で知られるウィンが、よりにもよってほれっぽい性格で有名なグレースに一目惚れされてしまったのだから、彼にとっては『お気の毒に』という以外にどんな言葉をかければいいであろう?
そのあからさまな反応に、極度の鈍感娘であるサイナですらその信条が知り得てしまうほどだ。
そしてウィンとグレースは、ペアを組んでいる。
「すごかったですぅ。お二人がリンとイルムに勝っちゃうなんて・・・みんなも、すごくびっくりしてましたよぅ?」
「へ。俺たちの実力だ。」
「・・・だが、あの方法はどうかと思うぞ?」
気をよくしていたジェスに水をさしたのはもちろん・・・ウィンである。
その言葉にジェスの目に剣呑さが浮き上がる。
「・・・なんだと?」
「シールドは本来、防御にのみ使われるはずだ。
それを何を思ったのかは知らないがあんな非常識な使い方をするとは・・・・・・」
「勝ったんだから別にいいだろ!」
「よくないから言っているんだろう。それにこのことは教官にも指摘されたはずだ。」
ウィンの一言にジェスがウッと押し黙ってしまう。
・・・そう、先ほども教官に呼ばれ「あの戦い方はなんだ!!!」とどやされたのだ。
あんな非常識な戦いではとてもではないが戦場には出せないとすら、言われた。
もちろんジェスはそれに猛然と抗議したが聞き入れられるわけもなかった。
「だいたい・・・サイ、君がナビについていながらなぜあんなことをしたんだ。」
話を振られ、サイナがびくっと身を竦ませる。
・・・ジェスと顔なじみであるグレース達を含めた八人とは、顔見知りになり話もするようになっていたが、サイナはウィンに対して苦手意識を持っている。
この高圧的な言葉遣いのせいでもあるが。
「普通、そこでパートナーの行動を諫めるんだ。それを手助け・・・・・・」
「まあまあ、いいじゃないですかぁ。それでも二人の勝利と、トップに変わりはないんですからぁ。」
だがそこでいつも助け船を出してくれるのは他ならぬグレースである。
彼女はトロそうに見えて、頭の回転がとてつもなくはやい。
おかげで人への気配りもうまく、サイナも性格も知っているのでさりげなくフォローしてくれるのだ。
そしてウィンはグレースに苦手意識を持っている。
「・・・グレース・・・・・・」
「さあさあ。二人とも〜、行きましょうか〜?」
「行くって・・・どこに?」
「打ち上げですぅ。第一次が終わったあとはいつもやっているそうですからぁ。」
「ふぅん・・・じゃ、行くか。サイナ。」
「・・・はい。」
ひとしきり笑い合って。
ジェスとサイナはゆっくりとグレースたちのあとについていった。
そして打ち上げパーティーの時。
みんなが楽しそうにしているのを見ながら、サイナは前からずっと気になっていたことをジェスに聞いてみた。
「・・・・・・? 俺がお前と組もうと思った理由?」
「は、はい・・・」
そう、いつも不思議で仕方なかった。
サイナは常に『パートナーとしては最悪』と生徒たちの間で噂されていた存在である。
そのことはジェスも知っていた(はじめての模擬戦のあとで聞いたのだ)。
それなのに、何故?
「だってお前、本当はうまいだろ?」
「・・・?」
「操縦だよ! それに筆記だって、シュミレーションだって、ずーっと上位に食い込んでるんだろ?
それなのになーんにも知らない奴らが勝手に噂して・・・なんだか腹がたった。」
「・・・だから、ですか?」
私が『かわいそう』だから、組もうとしのか。
「いーや。俺個人的なことでお前と組んでみたかった。そんな噂、あろうがなかろうが俺はお前を誘ってたぜ?」
だが返されたのは『否定』と、明るい笑顔。
「・・・・・・個人的な、理由ですか?」
「そ。ちなみにこれは秘密だからな。聞いても、教えない。」
ジェスの理由は『秘密』にされてしまった。
だがサイナはものすごく嬉しそうに・・・誰にも見えない位置で、ジェスだけに極上の微笑みを見せた。
「・・・ありがとうございます、ジェスさん!」
「・・・・・・あ、ああ・・・ま、気にすんなって。」
と言いつつジェスが少しばかり乱暴にサイナの頭をなで回した。
その頬にかあっと朱が走っていたのを、サイナは見ることができなかった。
「ありがとな、相棒。」
その瞬間、だと思う。
サイナがジェスに恋をしたのは。
<続く・・・>
![]()