やさしい気持ち
   +3+



 
  その日、ラクチェの機嫌はすこぶる悪かった。

  並みいる敵を流星剣で叩き伏せ、HPが減れば手近にいる敵に太陽剣をくらわせて傷を癒す。
  おまけに回復できないときは、見切りまで発動させるものだから始末が悪い。

  そして敵はラクチェの凄まじいまでの勢い・・・・・・そして、その顔に浮かび上がっている青筋と表情・・・思いっきり睨み付けているのだ。怖くないというほうがどうかしている・・・に、我先にと逃げだし、それを不本意ながらセリスたちが切り伏せていく。

  ・・・毎度のように戦乙女顔負けの戦いをするラクチェだったが、今日はそれがやけに激しい。

 「ラクチェすごいよ。この調子で頑張ってね!」

  と、激励の言葉を述べるセリスを凄まじい眼光で睨み付けて、

 「・・・はい。」

  一言だけそう言って去るラクチェの恐ろしさと言ったら・・・

  恐怖のあまり凍り付いたセリスの頭を撫でて、シャナンはふぅと、溜め息をついた。

 「まったく・・・今日は余計に酷いな・・・・・・」

  何があったのかはわからないが、ラクチェの機嫌はすこぶる悪いらしい。
  いや、傍目にもわかるほど激悪だった。

  原因は誰にもわからなかった・・・いや、わかった人物もいたが、口には出さなかった。

  からかおうものなら、ラクチェの流星剣滅多刺しという凄まじい報復が待っているからだ。

  ・・・そして、その不機嫌の原因はというと。

 「リブロー!!」

  ぱあっと淡い柔らかな光が戦場に輝いた。
  ふと、その声にラクチェが視線を向ける・・・・・・遠い(ゲーム画面にして10マス先(笑))地の果てに金髪の少年が大きな杖を必死でまわりの怪我人に振っている。

  ・・・僧侶部隊というのは思ったより少ない(回復ができる者もいるが、たいした回復ができないのが現状だ)ので、ラナとその少年・・・コープルが二つの部隊の後方について回復につぐ回復をしなければならなくなったのだ。

  ティニーやリーフ、ナンナたちもそれぞれに杖を持って回復に走り回っている。
  しかし杖の回復の威力を発揮するのはやはり本業のプリーストたちなのだ。それにリーフたちも戦闘のほうが大変で杖を使う余裕がない。

  しかもすでにスカサハと恋人状態であるラナが必然的にソードファイター(歩兵部隊)のほうに配置される。
  また遠くから回復が可能なリブローの杖を持つコープルは足が遅くても大丈夫ということで騎馬部隊のほうへと配置されることになった。

  だからこそラクチェは機嫌が悪かった。

  ただ、最初は「それもしょうがないか。」と思って我慢した。
  恋心というのも、まだ彼女は自覚寸前のものであった。

  しかしまずいことは続くものである。

  一度、騎馬部隊から引き離されてしまったコープルが敵に奇襲をかけられてしまったのだ。
  あと少しで危ない・・・というところで、騎馬部隊に合流しようとしていたラクチェたちが間一髪でその危機を救ったのだ。

  救われたとはいえ、これでは危険だと思ったセリス・・・

 「セリス様が先行しすぎたせいです!!!!!」

  と、ラクチェに痛い一撃をくらわされ(本当のことだから反論できなかった)ならば護衛をつけようということになった。
  そしてその護衛についたのが。

 「はぁ!!!」
 「アルテナさん、怪我してますよ! ライブ、しましょうか?」
 「ありがとう。でも平気よ、このくらいなら。」
 「わかりました。でも、あまり無茶はしないでくださいね!」

  ラクチェの機嫌が激悪なのはこれのせいである。

  セリスが護衛に、と選んだのはドラゴンマスターとなったアルテナであった。
  何しろ空を飛び、あっという間に村を開放したのち、そのままコープルの護衛につくのだ。

  その早さからの、人選である。

  ちょうど部隊から遅れてしまう頃にはアルテナがコープルの護衛につくため
これはこれで役にたった。

  ・・・そう。
  そのせいでラクチェの機嫌が極悪になってしまったとしても!(笑)



 「ラクチェ〜・・・しょうがないじゃないー・・・これも制圧のためよー?」

  と、言ってパティがなんとかラクチェを宥めようとする。
  しかしラクチェはただ機嫌悪そうに一瞥しただけで、すぐ剣の手入れに集中した。

  その様子にパティがやれやれ、と肩をすくめる。

 「それにさ、ほら。いくらなんでも年齢差がありますぎるし! 何というか、あの二人って・・・姉弟って年齢差じゃないの・・・・・・・」

  ちらっとラクチェのほうを見るが、彼女は黙々と剣を磨いていた。

 「ね〜・・・らーくーちぇー・・・・・・?」
 「・・・パティはいいわよ・・・」

  ぽつり、と。

  ラクチェはそう呟いて剣を磨くのをやめた。
  その動作と言葉にパティが首を傾げる。

 「レスターと、一緒にいられるんだから・・・」

  そりゃあ、一番の稼ぎ頭で(爆)レッグリングまで装備していれば。

  馬と同じ早さで走る盗賊。
  洒落にならない。

 「・・・・・・ねえ、ラクチェ。」
 「なによ。」
 「大丈夫だよ。だって、ラクチェ美人だし。強いし。」

  ほめ言葉なのだろう(強い、はどうかと思うが)。

  だが、ラクチェは、はあっと深い溜め息をつくばかりであった。

  恋はすてきだけど、めんどくさいものよ
  何しろ、心が絡んでいることなんて大抵平坦で終わるはずないんだから

  いつか出会った、酒場の踊り子がそう言って笑ったのを見た。

 「苦しいね・・・」
 「でも、だから恋って・・・成就したら嬉しいんだよ。」

  こんなに辛いのに。
  はやくこの恋の行方がわかればいいのに。

  ラクチェは、ほんの少しだけ弱気になっていた。

  そんな、心の重い夕暮れ時。


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