「今回あなた達を集めたのは、これが『魔法』に関わることだと思ったからなの。」
そう言ってソファに座る珠洲は脚を組み直した。
時折、膨らみを帯び始めている腹を撫で、けれどその実強さは変わりもしない視線の力を目に浮かばせて、口を開く。
「本来なら、あたくしが直接乗り込んでいきたいところなんだけど…この体じゃ、満足なことはできそうもないし。」
「んなもん、身重な時点で私がさせませんからねっ!!」
そうじゃなくても珠洲さんってば宝石がらみになると目の色変わるんだから! と横に座り込んでいる優華に言われ、珠洲が苦笑を浮かべる。
否定しないところを見ると図星だったらしい。
普段から危険な場所にほいほい突っ込んでいくことの多い(自分が望む、望まないに関わらず)優華に指摘されてはしょうがない。
それを見ていたルビーがわずかに苦笑を浮かべた。
桜姫が珍しいものを見たと言いたげに二人のやりとりを見つめている。
「………まあ、それに今回は元々、私が持ってきた話でもあるんです。」
まだ何か言いたげな珠洲を、ここ数年で急激に成長した口八丁さで半ば無理矢理に引っ込ませて、優華が部屋のほうへと振り返った。
その言葉にアルセウムが片眉を持ち上げて訝しげな表情をしてみせた。
言葉の意味を理解できていない舞鼓が続けて疑問を口にする。
「どういう意味です?」
その疑問はもっともなのだろう。
だがそこで優華は幾分か渋ったような、苦虫を潰したような顔をしてみせた。
よほど今回の『話』が彼女にとって、もたらされるべきではないものであったらしい。
無理に巻き込まれた、とも言っていいのかもしれない。
「…………や、あの…知り合いが、ですね……」
知り合いというのは、優華の『師匠』にあたる人物である。
言いにくそうな彼女の様子にルビーがそれを察知した。
今度会ったら優華に余計なことをさせないで、と二三発どつきまわすくらいはしておいたほうがいいのかもしれない。
何やら不穏な決意を胸にするルビーの心境を知らず、優華は意を決して顔を上げた。
「私の知り合いが、妙な『情報』を発見して、その中身がどうも妙なものだから調べてほしい、と。」
「妙なものって?」
同じくその場にいて壁に体を預けていたセシルが口を開く。
他のメンバーも同じ意見なのだろう。
自分に集まった視線に優華はもう一度溜息をついた。
「…………『宝石』、なんですよ。」
SCENE01 <万華鏡> −くるくるまわる。まわるまわる。まわる。−
そもそも、ここに集まったメンバーは元は同じ学院で過ごす仲間同士であった。
いや、友人といってもいいだろう。同志も、中にはいる。
それなりに交流があったメンバーは今回、突然優華から連絡を受けた。
冬休みも始まり、世間はクリスマスへ向けて着々と雰囲気を濃くしていく中、彼女はメンバーへのメールでこう書いた。
『力を貸して欲しい』、と。
何か厄介毎でもあったのだろうか。
遠く、海の地に暮らしていた過去の『事件』を体験している舞鼓が首を傾げる。
優華からの徴収は珍しい。
むろん、援護を要請する連絡など、無きに等しかった。
自分で厄介毎をどうにかするような人柄であったし、人へ頼み事をするのもない。
その彼女からの願いともなれば、まず動き出すのは舞鼓のよく知る『同志』であり『親友』でもあるルビーであろう。
彼女は相変わらずというか、優華への絶対的な信頼を崩していない。
溺愛というか、懐きっぷりは周知が知ることである。
無理をしないだろうか。
無理をして、何かしでかしはしないだろうか。
そう思い当たり、舞鼓は返事に『イエス』と出した。
詳しい経過はわからないが、危険すぎる場ではないだろう。
そもそも、生命の危機をもたらすような場には、優華は誰も呼ばない。
純粋に力を貸して欲しいなら、貸してあげない道理はない。
そう言って、舞鼓は同じ里で暮らしていた夫に事の経過を伝え、懐かしいイギリスへと向かう旨を伝える。
夫であるアレックスはそのことにあまりいい顔をしなかった。
心配もあるのだろうが、その点については言い含めておいた。
アレックスも同行しようか、と言ったが、やんわりと止める。
心配しすぎです。それに私が不在の間、誰がこの家を守るのですか、と散々言ってようやく了承を取り付けたのだ。
だが、アレックスが舞鼓の渡英を許したのにはもう一つ訳があった。
アルセウムもまた、同じ文面のメールを優華から受け取っていたのである。
何やら嫌な予感がして、アルセウムが日本へ電話を入れたところ、件のことになって、ならば二人で行くほうがいいだろう、ということになったのだ。
アルセウムは元々今回の話を断るつもりだったので、渋い顔をしたがアレックスからの『願い』もあり、渋々今回の話に乗ることになる。
元々イギリスにいるアルセウムは移動しやすかったという理由もあった。
時を同じくして、同じく日本で暮らしていた桜姫も優華からのメールを受け取っていた。
その内容に二つ返事でオッケーを出したのも、彼女らしいと言えばそうなのかもしれない。
懐かしい友に会える機会を逃す手もないだろう、と渡英を速攻で決めてしまった。
そこでついで、とばかりに彼女が電話をかけた相手がセシルだった。
そっちにも同じ要請が言ってないか、と聞かれ、セシルはイエスと答える。
そして手助けをするのかどうか迷っているとも。
そもそも何を手伝えばいいのかわからなかったし、専門外のことでも当てられてしまったら役に立てるかどうかもわからない。
不安というか、疑問を口にするセシルに電話越しで桜姫は言った。
大丈夫。ひーちゃんがそんな適材適所を忘れるような真似はしない、と。
さすが心の友。
見事に言い当てた桜姫の言葉に妙な納得を覚えて、セシルもそれで決断した。
たまには友達相手に善行を詰むのもいいだろう。
結論づけ、二人は優華への返答を送った。
そして、放浪の旅を続けていたルビーの元にそのメールというか、連絡が届くのはもう少し後の話になる。
タイムラグがあったのだが、それでも優華からのものにルビーは内容を確認するまでもなく、ほとんど一瞬で『イエス』と答えていた。
舞鼓の予想通りというか、危惧したとおり、ルビーは相変わらずだった。
相変わらずすぎて予想もたやすいほどである。
招集日当日、そのことを本人の口から聞かされた舞鼓は軽い目眩を覚えたそうだ。
「……まあ、良いんですけどね。」
はぁ、と召集場所でもある家の中で大きな溜息をつく舞鼓であった。
その隣では大きな紅色の瞳が彼女を不思議そうに見つめている。
「…どし、た、の?」
舞鼓の心配など余所にルビーは首を傾げていた。
その様子が面白いのか、桜姫が明るく笑いながらしょうがないよ、と舞鼓に向かって言う。
「だって、そうじゃないとルビーさんじゃないしっ!」
「……実はさりげなく失礼なことを言っていないか、桜姫。」
ぼそりと横で桜姫の言動にツッコミを入れるセシルであったが、彼女がそれを聞くわけもない。
「気にしない、気にしない……で、そいえばひーちゃんて部屋の中?」
目の前にある懐かしい『家』のほうを指さす。
ずいぶんと前に見たきりのその家は、外見は別段変わった様子はなかった。
時が止まったような感覚さえ覚える。
それでも調度品のいくつかは並べ替えられたりしていたし、庭先には誰の趣味なのか落ち着いた雰囲気のガーデニングも施されている。
家主は、全員を招き入れたあとお茶を入れにそこにはいない。
アルセウムが始終渋い顔をしていたのだが、誰もそれには深く追求することもなく放置の方向で話は進んでいる。
「うん…調べ物が、あるって…珠洲さんが……ゲストルームにいる、って言ってた、けど。」
「そうなんだ…あ、ゲストルームってあっち?」
そんなことを話ながら一同はゾロゾロと廊下を歩いていった。
階段を上がったさらに先。
奥まった場所にある一室。
近づいていくと、少しだけドアが開いていて、そこから忙しないキーボードを叩く音が聞こえてきていた。
代表してルビーが部屋のドアを開けて先に中を覗き込む。
そして、唖然として口をぽかん、と開けてしまっていた。
急に立ち止まったルビーに気づき、続くメンバーも首を傾げながらも順番に部屋の中を覗き込んでいく。
さらに同じく、全員が絶句してしまった。
部屋のなかは、惨状そのものであった。
いや、別段死体が転がっているとか、そういうものではない。
そもそも死体なんぞ転がっていたら、家主の女帝の雷が落ちる。怖い。
何やら人道云々を無視した話が出てくるが、このさい無視してもいいだろう。
部屋の中は、惨状というかひどい有様だった。
死体は転がっていない。
血もなければ、荒らされた形跡もない。
ただ、そう。
足の踏み場が、なかっただけだ。
フローリングの床が見えなくなるほど張り巡らされたコードやケーブル。
うめき声を立てるかのように稼働している十数台のマシン。
明滅する数々のディスプレイ。
叩きつけるかのように打ち込まれるキーボートに至っては、5つほど彼女のまわりに鎮座していた。
それを流れるような手の動きで制御しつつ、次々と事象を出しては消し、出しては消しを繰り返す指先は、さながら狂想曲を弾くピアニストのようであった。
ケーブルのコードの上に直接座り込んでディスプレイに集中している彼女は、さながらこちらの物音になど反応さえ示さなかった。
舞鼓が困ったようにアルセウムを見上げている。
桜姫はどうしようか、と良いセシルが首を横に振った。
そこでルビーの目が、彼女の肩のところでとまる。
彼女の肩の上で蠢く白い物体。
大きな、瞳。
「………煌。」
呼びかければ小柄な猿と思しき『使い魔』が反応を示した。
大きな瞳で『来訪者』たちの姿を認め、目の前にある彼女の髪の毛を引っ張る。
『ユカ、キャクきた。』
声ならざる声であったものの、それを察知してか(というより引っ張られた髪が痛いのか)優華が振り返る。
そして部屋の外に立っている面々の顔を見て、おや、と驚いたように声を出した。
それからにっこりと笑って、顔を綻ばせる。
「いらっしゃい。ご協力感謝しますよ、我が愛すべき友人の皆様v」
本当に、掛け値なしに嬉しそうに言ってくれたので、舞鼓たちは苦笑いを浮かべるしかなかった。
優華の肩の上に乗っている煌が、首を捻ってその様子を眺めていた。
その後、部屋の惨状を片付け(優華の魔法であった。彼女が指先で触れただけで、コード類は独りでに撒き戻り、整然と並べられ、ディスプレイやマシンですらもコンパクトにまとめられていった。)、発掘されたソファに座ったり、壁にもたれかかったりしていた。
ルビーは優華にべったりで、久しぶりの逢瀬を楽しんでいるらしい。
そこへお茶を入れ終わった珠洲も部屋のなかに入ってきた。
お腹が膨らんだ彼女を働かせるのもあれだ、と舞鼓と桜姫が手伝いなどしている。
そのやりとりを眺めながら、後ろから抱きついてくるルビーの頭を撫で、優華は早速、と今回の『要請』の下りを説明し始めた。
曰く。
おかしな宝石が、あるのだと。
「宝石だぁ?」
その言葉にアルセウムが不信感をあらわにして声に出す。
不信ももっともだ、と頷きながら、優華は横に唯一置いてあったキーボードを叩く。
指先の動きに従って、部屋のディスプレイに映し出されたのは、一つの宝石だった。
それも画像が荒く、どことなく暗い。
隠し撮りなのは一目瞭然だったが、その宝石には強烈な違和感を感じる。
そう、違和感というか、おかしい。
「…………赤い、な。」
まるで、血のように赤い。
そうセシルが直感的に言う。
「この宝石の名前は、<ブラッディ・ホープ>。」
優華がその疑問に答えるかのように話を進めていく。
宝石のあまりの赤さに、気味が悪そうに舞鼓が眉をしかめた。
「…赤い……ルビー、ですか?」
「いいえ、宝石のルビーであったとしても、こんなに強烈な『朱』を出すことは不可能ですよ。」
「じゃあ、なんだ…」
「新種よ。」
そこで珠洲が口を挟んだ。
彼女もディスプレイに視線を流しながら、思い出すようにして自分の知識を言葉に上らせていった。
「ここ最近出始めた新種の宝石。
そのあまりにも見事な赤色、高純度さ、そして希少価値ゆえに、現在ではどの宝石よりも高値で取引がされているわ。」
あのアレクサンドライトよりも石が取れず、高値がついているらしい。
ここでもアルセウムが不服そうな顔をする。
こんな石ころ一つにいったいいくら動いているのかわかったものではなかった。
「確かに、見事な宝石だとも言えるのだけどね………」
「何か、問題でも?」
言いつのった珠洲の言葉の意味に気付いたのだろう。セシルが先行して疑問を投げかけた。
「…………鉱物の、分子が『わからない』んですよ。」
そこで優華が口を開いた。
何のことを言っているのが、そこにいる珠洲を覗いた面々はわからずに目を丸くしている。
その間にも優華はルビーの腕を放して立ち上がり、近くにおいてあったもう一つのキーボードを叩く。
「鉱物は宝石の『格』とも言えるものです。
たとえば炭素、あるいは他の分子や原子でもいい……とにかく、それがまったくといっていいほど、情報がないんです。」
その言葉と同時に彼女のすぐ後ろで畳まれていたディスプレイが一斉に稼働を始めた。
様々なものを写しだし、そして次々と内容を変えていく。
「ネット、うわさ話、あるいは現地発掘者………そんな、末端にいたるまでの全ての情報がシャットダウンされてるんです。
私もさっきまで探していたんですが、宝石そのものに関するデータとなると……」
かち、とキーボードの一つを押せば、その途端に全てのディスプレイにはこう映し出されていた。
赤い文字で、ただ一言。 『NO DATE』。
「……まあ、これだけなら私も、珠洲せんせも動きませんよ。なんたって、ただの宝石なんですからね。」
そう、宝石ひとつならばどうということもないだろう。
過去100年の間に新たに発見されたという宝石は数多い。
今回のそれもひとつなのだろう。
誰もがそう思った。そう、思っていた。
「あたくしが、これを見つけるまではね。」
そう言って珠洲はポケットの中から無造作に石をひとつ取り出した。
赤ん坊の爪の先ほどにもない大きさの宝石。
血のように赤い。
「…………これが。」
「そう、『ブラッディ・ホープ』よ。この前、ようやくあたくしのところでも手に入ったの。」
入手困難だったから骨が折れたわ、と言う珠洲であったが、全員の目は宝石に注がれている。
画像に映し出されたものとは比べものにならないほど燦然とした赤。
鮮烈なまでの輝き。
飛び散った血を、固めればこんな色と形になるのかもしれない。
そんな錯覚すら覚える。
「…………?」
そこで宝石を見つめていたルビーの視線が凍った。
いや、気配がざわり、と動いたと言ってもいいのかもしれない。
全身で警戒していた。
ただの宝石を目にして、ルビーの本能は『警戒』のブザーを高らかと鳴らしているのである。
「……ルビー? どうか、なさったのですか?」
心配そうに舞鼓がルビーに問いかけ、そこでようやく彼女の瞳の焦点が戻る。
顔を上げ、それから苦々しく顔を歪ませると、唇を開いた。
「…血の、匂いがする…!!」
何からとは言わなかったが、その言葉は全員が意味を理解していた。
思わずセシルが飛び退き、桜姫も小さく身を竦ませる。
「…そう。」
それを見ていた珠洲は改めて掌ごと宝石を握りしめて、それを仕舞い込んだ。
「……人を惹きつけてやまないものの正体は、もしかしたら『とんでもないもの』かもしれないの。」
ただしこれだけでは証拠が足りない。
今の段階ではこれはただの憶測であり、予感でしかない。
一種の女の勘など、業界で通じるものではないのだ。
「だから、証拠が欲しいんですよ。確固たるものがね。」
そうすればこの宝石の正体を暴くのも簡単になるはずだ。
とんでもない厄介な仕事になりそうな予感がしてアルセウムが溜息をついた。
セシルもまた、嫌な予感がした。
そんな二人の様子を苦笑して見つつ、優華は宥めるように言葉を選ぶ。
「この宝石を扱っているのは、今や世界に1社しかないんです。つまり、そこの独占状態……なんで、そこのメインコンピューターに潜り込めれば、証拠を押さえることができるんですよ。」
「……ここから、探せない、の?」
コンピューターを使って出来ないのか、と言いたげなルビーであったが、優華はそれに対して苦笑を浮かべる。
「そこのメインコンピューター、独立可動型なんですよ。外部からのアクセスはほとんど不可能に近いんです。」
もしうまくリンクすることが出来たとしても、長時間潜り込むことは出来ない。
なので、今回、援助を頼むことにしたのだという。
「護衛みたいなものかい?」
セシルがそう聞けば、優華は首を横に振った。
「カモフラージュですよ。」
「カモフラージュ……?」
「そそ……実は、今回とっときの潜入方法があるんですけど…私一人じゃ、どうも不安で。」
お願いします、と優華は頭を下げた。
あたくしからもお願いするわ、と珠洲も続ける。
今更、嫌だと帰ったら目覚めも悪くなってしまうだろう。
それに、友人の願いを無下にするのも気が引ける。
そしてその場にいた全員が了承してから、三日後。
時間は、現在(いま)に戻る。
「魔法に関するものっていうのもほんとですよ。」
その時のことを思い浮かべながら、優華は隣にいる桜姫にそう言った。
「『加工』方法とか、そのあたりに魔法が使われてるのは確かです。実際、珠洲さんの持っているあの宝石にも、実に十以上の『結界』が張ってあったくらいですから。」
あんな小さなものにさえ張り巡らせる徹底ぶり。
何か、あるのだ。
そう感じ取り、桜姫もまた何度も頷いていく。
「それを破ったりできなかったの?」
「やってみようとは思ったんですけど……なんていうかなー…一つ結界を解く毎に結界の解き方が変化するっていう、なんとも面倒なトラップをつけてくれやがりまして…」
試したのだろう、疲れ果てた顔でそう言った優華の肩を桜姫は優しく叩いた。
「勿論、今でも知り合いのとこで解析中ですけどね…何かわかり次第、連絡が入るはずなんですけど…」
「ふーん………あ、そいえばさ、ひーちゃん。」
「うい? なんです、桜たん。」
会場を横切りながら会話をしていると、桜姫は不思議そうな顔で首を傾げていた。
横に振り返った優華も何の話だろうか、と続きを待つ。
視線に気付いて桜姫は、たいしたことじゃないんだけど、と前置きして言った。
「あたしたちの他にも、誘ったりしなかったのかなーって。」
その疑問に優華はもっともだ、と言いたげに納得して頷く。
「誘いましたよ。今回はその会社が作った新ビルの完成披露パーティですからね。どうせなら男女ペアとかもちっと出来ると善かったんですけど……」
まあ、可愛い子のドレス姿が見られただけでも自分にとっては全然オッケーなのだが。
とかなんとか目的とはまったく関係のないことを思い浮かべる優華であったが、表情には出さなかった。
「ひーちゃんは、どっちかっていうと可愛い子の着せ替えができて嬉しそうだけどー。」
実際、優華の言わんとすることが桜姫にも伝わっていたりするのだから、さすがは心の友である。
「それで、あと誘った人って誰なの?」
それは、と優華が答えかけたところで、イヤホンに独特のノイズ音が走った。
口を閉じ、イヤホンに集中すると、その先でルビーは『見つけた』と言っているのが聞こえる。
「……侵入経路ですね?」
『うん……図面、どおり…多分、警備員が……一番、少ない…と思う。』
「ありがとです、姉さん。それでは、後で。」
ぷつ、と通信を切ると同じくそれを聞いていた桜姫が頷いて答える。
「急ごっか。」
「ええ、ここに長居をしていても、得られるものはなさそうですからね……」
そうして二人は歩き出した。
桜姫の疑問はお流れとなったのだが、それは世間話程度で二人とも特には気にしなかった。
気にせず、そしてその質問は忘却となってしまう。
同じく。
同時刻、ビル内の警備室本部。
そこでモニターを見つめている人影があった。
数は三つ。
「………見つけた。」
ぽつりとモニターを見つめていた一人が呟き、手元を操作するとモニターの中に映し出された人物がアップになる。
黒髪の女性が二人。
何事かを話ながら会場を出て行っている。
そして同じように操作を続ければ、次に金髪の男性と和装の女性。
あるいは金髪の濃紺のドレスの女性の姿も映し出されていく。
「…数は……少なくとも、五人、であるか。」
「いや、違うな。」
かつり、とモニターを見つめていた人物が動き、側にあったモニターのひとつに指を滑らせる。
暗がりのなか、壁に張り付いてまわりの様子を窺っている金の髪。
「…六人、だ。」
そこで声が聞こえたかのように、モニターの中の女性が顔を上げた。
視線がカメラに固定され、訝しげに眉をひそめているのがわかる。
そしてそのまま指を振ったかと思うと、画像が乱れ、そして消えた。
警戒してのことなのだろう。
だが、すでに見つかっているのでは効果はない。
そう思い、モニターを見つめていた人物が唇の端を持ち上げて笑った。
「バカなヤツだ。」
誰に言うまでもなく、呟きは紡ぎ出され闇に溶けていく。
闇は深く、遠く、まるで光さえも呑み込むかのような勢いで。
すべてを覆い尽くす勢いで、それでも静かに、けれど着実に広がっていく。
そう、さながら、
月の光に照らされ、浮かび上がった影のように。
<02に、続く。>